【表からも裏からも読める!】『やまからにげてきた・ゴミをぽいぽい』

【表からも裏からも読める!】『やまからにげてきた・ゴミをぽいぽい』

田島 征三/作 36P 童心社

【いち早く自然環境破壊に対して問題定義をした必読な絵本!】 

まずは表面『やまからにげてきた』から開くと、山に住む動物や虫、鳥たちが「たすけて」と叫びながら逃げてきます。ページをめくるごとに、その悲痛さが増し、取り残されて命を奪われる生き物たちも出てきます。

彼らの住処である山は、ゴミ処分場の建設によって破壊され、綺麗な森の木の緑などはなくなり、黒く濁った色合いだけの巨大なゴミ処分場となっていきます。

その反対の裏面『ゴミをぽいぽい』から開くと、人間が「あれもほしい これもほしい」、「やすいからどんどん買う」などと計画性もなく次々に物を手にしていきますが、「あまったから ぽい」、「あきたから ぽい」、「こわれたから ぽい」と、何を考えることなくゴミを捨てていきます。

そして、そのゴミはやがて黒く濁った色合いだけの巨大なゴミ処分場へと運ばれるのです。ちょうど真ん中のページで二つの物語が繋がるのです。

『やまからにげてきた』では緊迫感を悲壮感が、「たすけて」「タスケテ」と絵の中のひとつとして荒々しく混沌とした状況が描かれています。一方、『ゴミをぽいぽい』で描かれている人間の顔は、どの表情も何事もなかったような澄まし顔で、当たり前のようにゴミを捨てていく様子がシンプルに描かれています。

そのため、同じ「生き物」でも、山の生き物たちの生命感と人間の冷血感が、ハッキリと異なる感情であることを読み取れる、自然環境破壊の問題を分かりやすく読者は感じることが出来るようになっています。

【丈太郎のひとりごと】

この絵本は、征三さんが実際に住んでいた、東京都西多摩郡日の出町にゴミ処分場が建設されたことを題材に人間の勝手さや愚かさをストレートに分かりやすく表現しています。

実際に征三さんは、ゴミ処分場建設の反対運動に力を入れて、その間は絵本を描くことなく、全国各地に車で向かい、ゴミ処分場建設の反対を訴える活動を熱心にしていました。

そして、そんな過酷の状況の中、征三さんは身体を壊してしまい、結局、ゴミ処分場は予定通り建設されてしまったのです。

ここ数年「SDGs」という言葉をよく耳にします。17の目標を掲げ、地球を持続可能なものにして、「誰一人取り残さない」社会をつくるために、2030年までに達成すべきゴールのことを指す言葉のようです。

一時期は、政治家などが皆んなスーツに「SDGs」のバッジをつけていましたが、果たしてどれだけの人が、その本質を認識し危機感を持って行動してのでしょう?

「SDGs」なんて言われる30年も前から征三さんは訴えてきたのです。僕は子どもたちに環境問題を教えるのであれば、この絵本が一番の教科書になると思います。

何故、今さら1993年に発刊された絵本を、僕が皆さんに紹介するのか?その答えはひとつだけです。この絵本に描かれていることが過去のことではなく、今でも平気に行われているからです。

表面上の「SDGs」という言葉を多用して、本質を理解していない会社や団体が、自分たちのクリーンなイメージをブランディングしているだけなのです。そんなことでは世の中は変わりません。

私たち人間はこれからの社会での生活において、もっと本質を知るべきであり、子どもたちの将来を真剣に考えるべきだと思います。

征三さんのストレートに表現されたこの絵本を多くの人に手渡していきたいと、僕は強く思います。

田島 征三/作 36P 童心社【いち早く自然環境破壊に対して問題定義をした必読な絵本!】 まずは表面『やまからにげてきた』から開くと、山に住む動物や虫、鳥たちが…
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