トミー・ウンゲラー/作 アーサー・ビナード/訳 48P 好学社
【僕ら人類はこの先どうなって行くのだろう?】
「ひとりぼっちだ。せかいに のこっているのは たぶん、ぼくだけ。」
アオムシもいない、チョウチョウもトリも飛ばなくなって、草が枯れて木も枯れた。
「ひとびとは、にげて・・・・・・ 月にいってしまった」
僕は街を歩くが、誰にも会わない。僕の影だけが一緒。いきなり影が指差した「あっちへいけ!」
「やばっ!」
僕は影の指す方へ走る。そして、また影が指示を出す「やばっ!」建物が倒れかけている。
生き物がいると思ったら、触角を震わした生物。流されてしまった妻に手紙を渡して欲しいと、手紙を受け取る僕。テクテクと歩いていたら海が押し寄せてきて大洪水。
「やばっ!」
僕は樽の中にとびん混んで海へ。やがて黒い島に流れ着いたらお母さんと子どもの生き物がいた。そして手紙をわたす。子どものポーを託されて、また先に進む。
「やばっ!」
どんどんと迷宮入りしていく僕と影とポー。その先に待っているもの果たしてなんだろうか?
ピンクや緑や青のパステルカラーが多用されながらも、それら色は明るくなく沈んだ色合いで、全体を通して機械的に冷血感が漂うように描かれた絵。
2019年に描かれた遺作となった絵本。今までのトミー・ウンゲラーの作品とは一線を画すこの絵本をどう読み解くのか?かなり深く重いメッセージが込められている気がします。
【丈太郎のひとりごと】
僕が世界で一番好きな絵本『すてきな三にんぐみ』(偕成社)の作者トミー・アンゲラー(『すてきな三にんぐみ』ではアンゲラーと表記されていますが、他の作品はウンゲラー)の最後の作品が出るということで、とても期待して待っていました。
トミー・ウンゲラーは時代やテーマにより絵の描き方や文章も様々でしたが、どこか人肌の温かさと現代社会に対するアンチテーゼみたいなものをストレートに表現するのではなく、うまくストーリーの中に織り込んで、読者(子ども)に「こっちにおいで!」と話かけているようなイメージを持っていました。
しかし、今作を初めて読んだ時、どこか突き放された感と言うか、冷酷さを感じ「本当にトミー・ウンゲラーが描いたのか?」と疑いを持ち何度も読み返しました。何度か読み返しているうちに「これはトミー・ウンゲラーの絵本だ!」と、ようやく確信しました。
この絵本は現代社会の闇を暗示しています。絵にも愛嬌はなくユーモア性を排除し、とことん現実と未来と向き合って描かれている絵本です。しかし、そこはやはりトミー・ウンゲラー。かすかな希望を灯してくれてもいます。
このような絵本を私たちがどう読むべきなのか?子どもにはこの内容がわかるのか?正直、僕は悩みます。
今のところ、大人向けじゃないかな?と思います。トミー・ウンゲラー信仰者としては、扱いに慎重にならざる得ない絵本です。
ただ、ひとつ言えるとするならば、やはりトミー・ウンゲラーと言う作家は、しっかりとした信念を最後まで貫いたと言うことです。